先日、
ARGフォーラム「この先にある本のかたちー我々が描く本の未来のビジョンとスキーム」に参加してきました。
●全てのスピーカーが非常に面白かったのですが、まずは金正勲先生の韓国の電子図書館のお話から。(実際の講演順とは異なりますが)
日本ではまだ電子図書館は法制化されておらず存在しないわけですが、韓国では1996年から電子図書館構想が始まっており、3年間実際に運用してみた結果、2000年に見直しが行われ、改正法が制定されているそうです。日本より2回り分ぐらい進んでいるのです。
ちなみにどんな改正が行われたかというとデジタル化された書籍を伝送する場合の規定や出力した場合の著作権制限や図書館保証金制度など、運用してみて出てきた課題に対処しながら前に進めているそうです。図書館保障金制度とはデジタル書籍を出力(印刷など)する際に補償金を発生させるという制度で、具体的には1ページ5won、1ファイル20wonとのこと。
韓国の事例がそのまま日本に移植できるわけではないでしょうが、これから電子図書館を検討しようという日本との時差を感じると共に、こういう形で海外での先行例をどんどん学び、吸収するべきだなあと思いました。
韓国ではネット上の誹謗中傷で女優さんなどの著名人が自殺をしており、ネット上の誹謗中傷問題は非常に重要視されており、選挙についても例外ではありません。なお、誹謗中傷対策として導入されたのが「インターネット実名制」。韓国では掲示板やチャットルームが実名のみでしか使えません。日本のネット界でも誹謗中傷は多いですが、問題も対策も韓国ほどはいっていないので色々な意味で勉強になります。もちろん韓国が全て良いということでも、全て日本で適用すればよいということでもありませんが、先行事例からは学ぶことは学び、吸収できることや避けるべきことはそのようにできればと思っています。
ARGに話を戻します。金先生は「デジタル化による保存」と「利用促進の側面と著作者の権利保護」のバランスをとることが重要とのことで、以下2つの提言をされていました。
1)公共図書館が電子図書館事業を行う場合、特例的免責条項(Opt-out)が適用されること
2)図書館補償金制度の採用
従来はOpt-inで許可が取れたものしか進められないという形だったのを、Google Book Search はOpt-outの形で始めたという話を事例としてお話になった上で、電子図書館事業ではOpt-outにすべきとのこと。
ちなみに司会の岡本真さんからの情報ですが、「近代デジタルライブラリー」は明治大正の物を許諾を得ながら(つまりOpt-in)15万冊画像という形でアーカイブするという文化庁のプロジェクト。かかった費用はなんと一冊1225円(作者毎2300円相当)!
●では日本の電子図書館構想は?ということで基調報告は国立国会図書館長の長尾真さん。
「デジタル時代の図書館と出版社と読者」ということでこういう構図を検討しているとのこと。
出版社は紙およびデジタルの形で国立国会図書館に本を納本。
国立国会図書館の館内利用者は無料で本とデジタル書籍を読むことができる。
また、国立国会図書館はデジタル書籍を公共図書館へも館内利用限定で貸し出すことができる。
国立国会図書館のデジタルアーカイブは電子出版物流通センター(仮称)に無料で貸し出す。
電子出版物流通センター(仮称)の利用者はアクセス料金を支払って利用し、そのアクセス料金は出版社へ配分される。
また、広告を掲載することで広告主からの広告掲載料も徴収。
。。。まだ議論は必要とのことですが、こういった構想があるとのことでした。
●ジャーナリストの津田大介さんは、自らの体験を元に出版業界についてお話をされていました。
若かりし津田さんが面白いと思った座談会の記事で、「40歳を超えたフリーライターがライターとしてやっていくのが非常に難しい」という話があり、彼らがとるべき道は 1)作家(小説やノンフィクションなど)になる 2)分野を絞った専門家・第一人者になる 3)編集プロを作り、経営者になる。。。というものだった。ライターになりたいと思っていた津田さんは2年半編集プロダクションで働いた後27歳で独立し、編集プロダクションを設立すると共に自らもジャーナリストとしての活動を始めたそうです。
1999年のNapster問題を取り上げたのを機に、音楽業界はデジタル化も早く、音楽業界で起きたことが他のコンテンツビジネスにも波及していくと感じ、以来音楽や出版などコンテンツ業界の動向を追うジャーナリストとして活動を続けてこられました。
その後書籍(単行本)を出版。単行本を出版することのメリットは名前が売れること。ただし、単行本を書こうと思って半年くらいかけて書くと、雑誌のライターをやっているときよりも収入が落ちる。仮に1500円の書籍を初版5000部刷ったとして印税は70-80万円ぐらいにしかならない。
今は出版社も厳しいし、著作者も厳しいという状況。どうやったら若くて才能のある書き手が食べていけるようにできるのかを考える必要があります。年輩で出版業界で食べられなくて去っていった人達はどうしているかというとIT業界に行っているらしい。携帯のコンテンツプロバイダー等でデジタル情報の編集をやったり、企業のプレスリリースを書いたり。IT業界に出版業界のノウハウが流れ込んでいるわけですが、出版業界はそれで本当にいいのか?という疑問が残ります。
音楽と出版業界について。似ているところはパッケージ売り。音楽ではCDを、出版では本を売ります。CDがデジタル売りになったり本が電子書籍になっていくところも似ています。異なるのはコスト構造。CDはプラスチックが安いので3000円のCDのうち、プラスチックの原価は60円ぐらい。利幅が大きい。本は紙・印刷代が高い。30-60%ぐらい?利益率が低い。
紙で本を出すことの強みはあると思うとのこと。理由は、電子書籍は読みづらいから。紙はコピーされ放題ですが、コピーマシンでコピーした方が本を買うよりも高くつく。デジタル化のメリットは検索できること。
情報に対して人がどう対峙して行くか。津田さんは価値の高いシンポジウムに出席した際にTwitter中継を行い、これは価値が高かったと思うとのこと。また、津田さんがTwitterでURLをつぶやくと1000-2000人はクリックしてくれる。こうしたことを考えると、価値ある情報を出す人(著者)に対するファンクラブを作り、著者が持っている情報やノウハウをソーシャルネットワーク的に出してビジネスにつなげるというのはどうかという提案をされていました。
また脱線します。私がこれを聞いて連想したことが4つ。
1)NINのオンライン販売
2)情報商材
3)個人の有料メルマガ
4)同人誌
要するにポイントは 1)お金を取れるほどのクオリティの高いコンテンツを作れる作者であること 2)作者と読者が直接つながることで中間で抜かれることなくお金のやりとりができること 3)紙という媒体ではなくデジタルな媒体で情報を売ることでコストを抑えることかなと。(同人誌は紙ですが)
1)
Nine Inch Nails (NIN) はミュージシャンなのですが、
アルバム "Ghosts I-IV"をCCライセンスにし、NINのサイトに行けば36曲中 9 曲は無料でダウンロードでき、 5USD 払うと 36 曲全てをダウンロードでき、 CD は 10USD、ハードカバーのデラックス版は 75USD、限定版のボックスセットは 300 USDで販売し、1週間で1600万ドル(約16億円) を売り上げました。サイトでの直接販売だったため、殆どの売り上げがアーチストの手に渡ったといいます。更にこのアルバム、2008年のベストセラーMP3アルバムになっています。正にお金を取れるだけのコンテンツを作れる人が、読者と直接つながりコストを抑えつつ大きな収入を得られた例。NINは世界的人気アーチストなので特殊事例ですが、良い先行例ではあります。これの出版版。
2)情報商材は数万円・数十万円で「情報」を売るというもので、原価が殆どかからずオンラインでバリバリ売れるということで、アヤシさ満点ながら一部で流通しているようです。これもまあ、お金を払う価値があると思う人がある程度いて、作者と読者が直接つながり、コストを抑えつつ大きな収入を得られた例ですが、詐欺も多いのでなんとも。
3)有料メルマガは儲かる人は儲かっているのでしょうか。個人の有料メルマガでパッと思いつくのは田中宇さんや佐々木俊尚さん等かな。お金を取れるだけのコンテンツを作れる人が、読者と直接つながり、コストを抑えつつ収入を得ている例ですね。どれだけ儲かっているのかはわかりませんが。。。
4)同人誌。これはクオリティは玉石混交、儲かっている人も赤字の人もいますし、紙を印刷するのでコストはかかっていますが、面白いなあと思っています。つい先日夏コミがあったばかりですが、コミケすごいですよね。私が初めてコミケに行ったのは中学生のとき(晴海時代)で、社会人になってから行ってなかったのですが去年の夏コミと今年の夏コミに久々に行ってみました。相変わらずすごいエネルギーとすごい消費が行われています。10年ぐらいのブランクがありますが、変わっていないところが多いなあと感じます。行ったことがない人はだまされたと思って一度コミケに行くべきだと思います。約3万5000サークルが出展し、来場者数は過去最高の56万人。でも重要なのは人数ではなくて、そこで行われている行動・ビヘイビアとエネルギーを体感することなんです。
そもそも。商業誌と呼ばれるプロが書いた漫画の単行本って、ページ数も結構あってだいたい400円~600円ぐらいですよね。同人誌は、コピー誌なのかオフセット印刷なのかとか、白黒かフルカラーかとか、紙質とか加工とか変動要因は色々あるのですがものすごく大雑把に言うならば、薄いもので300円~500円ぐらいだったり、そこそこのボリュームで600~1,500円ぐらいだったり、厚いものだと3,000円ぐらいしたりするわけです。で、書いているのはアマチュアが主。(もちろんプロデビューした後も同人活動を続ける作家さんも多いですが)そういった価格のアマチュアの本がガンガン売れていくわけです。(もちろん全然売れないサークルも多く、出展サークルの9割が赤字という噂もありますが)大手のサークルがものすごい搬入量→ものすごい行列で完売しちゃうというのはわかるのですが、小さなサークルでも夕方15時ぐらいになると会場内に「新刊完売」の紙が結構多く出されています(もちろん数が少ないということもありますが)。会場内を歩いていると、結構若い子で、ぱっと通りがかって800円ぐらいの本を表紙を見てぱらぱらっと見て数冊がさっと買っていく人とかが結構いる。コミケという熱い場では、だいぶ金銭感覚が違う。
同人誌って高いんですけど、みんながぼっているわけではないんです。(ぼっている人もいますが)自費出版なので、印刷所に出すと紙代印刷代がかなりかかる。スペース代もかかるし人によっては東京までの運賃もかかっている。ものすごい儲かっている人もいますが、儲かっていなくても楽しいから続けている人が多いという構図。読者は高いお金を払って本を手にて入れているけど、その高いお金を受け取るサークルも印刷所に高いお金を払っている。じゃあ印刷所がぼっているのかというとそんなことはないようで、何この高コスト体質。。。という感じなのですが同人誌を読む人が「同人誌高いよ!もっと安くしろがおー」みたいな運動にはなっておらず、同人誌を作る人が「印刷所が高いんだよ!もっと安くしろがおー」という運動にもなっておらず、印刷所が「紙やトナーのコストが高いんだよ!もっと安くしろがおー」とメーカーに噛み付くということもなく、高コストな割にみんな結構精神的には幸せ(お財布の中が幸せかは知りませんが)という不思議な幸せ空間。まあ嫌だったら買わなきゃいいし、作らなきゃいいわけで。なんか、もっとこういうところから何かを学べないかなーと思っているんですけどね。
当然のことながら、同人の作家さんが商業誌に移ってプロデビューすると、同じコンテンツを読む読者としてはものすごく安く読めるようになります。
なぜそんなに高いのに人は同人誌を買うのか。理由は人によりますし色々ありますが、やはりそ
こでしか買えないレア性だったり、
好きなジャンルやキャラクターやサークルや作家への傾倒によるものだったりするのではないかと思います。自分の好きなキャラクターの物だったら全部買うみたいな人もいるし、自分の好きなサークルの物は全て中身も見ずに買うという人もいる。あと、商業誌だと規制もあるけれど同人誌は割と
表現の自由が担保されている(もちろん準備会による見本誌チェックがあるので何でもOKではありませんが、会場を歩いていると
驚くべきクリエイティビティが散見される)ので面白いということもあります。作家の側からはどうか。以前メディア芸術祭で
白井弓子さんの講演を拝聴してブログを書いたことがあるのですが、彼女もこんなお話をされていました。「
実は以前商業誌デビューしたことがある。しかし、商業誌だとキャッチーでかわいい女の子が出てくる物が『売れる』ので、そういった物を書くことを求められてしまう。同人誌だと、自分が書きたい物を書けるし、『がっつり読み込む人』達が買って、読んでくれる。描きたい物を描いて、読んでくれる人がいて、発表の場があるのが同人誌の世界。」
じゃあ作家にとって同人誌でやるのと商業誌でやるのとどちらの方が儲かるのか。私も作家ではないですし検証したことがあるわけではないのですが、商業誌はものすごい売れっ子の方はすごく儲かっていて、特にメディアミックスされてテレビや映画になってキャラクターグッズやCDが販売されるなどあるとすごいらしいですが、このように
全然儲かっていないということを赤裸々に書いておられるケースもある。(漫画は特にコストがかかりますからね。。。文章だったらトーンもいらないしアシスタントもいらないし。)で、
Wikipediaのコミックマーケットの項目によると「
商業誌でデビューして知名度を稼ぎつつもむしろコミケットや同人ショップでの同人誌の販売に本業の比重を置く者も増えていく。端的に言えば、
テレビ出演をプロモーションの場と割り切り、収入の大半をディナーショーなどで確保している一部の歌手や芸能人と似た樣なビジネスモデルである。実際、
コミケットなどの大規模同人誌即売会向けの同人誌の制作の時期には同人誌の制作を優先し、商業出版の仕事を事実上受けない漫画家がいる。」こういったコミケ時期に作家が商業誌の掲載を受け付けず、過去の新人賞の下位受賞者を引っ張り出してきて体裁を整える雑誌のことを「
コミケ休載号」と呼ぶらしい。引用を続けます。「また2000年代より、商業誌について回る表現の制約や規制を嫌い商業作家としての活動はゲームソフトの原画や雑誌などのイラストカットやライトノベルの挿絵を描く程度で、あとはインターネットのホームページなどで活発な宣伝活動を行い、
同人誌やグッズの販売だけで活動費や生活費を捻出するスタイルを選ぶ者さえ現れている。これらを指す『プロ同人作家』という言葉も存在し、これを自称する者も現れている。」売れっこになれば、高止まりしている同人誌を売れば売るほど儲かる。売れるためには商業誌で名前を売る。。。。ってこれ、津田さんが仰っていた「単行本を出して名前を売る。でも、単行本の印税では食べていけない。」っていうのと構造は同じじゃないですか。
いずれにせよ、日本のコミケって本当に奥が深いので学ぶべきことはとてもたくさんあると思います。すごい長い脱線でした。自重自重。。。。
●続いて有名ブログ「情報考学 Passion For The Future」の橋本大也さん
ブログでは1200冊の本の書評を書いてきた。本を探す→買う→読む→ブログを書く→フィードバックをもらう→探す。。。というループが生まれており、また買わなくても献本をもらう場合も。たくさん読んでたくさんブログを書くことでAmazonの売り上げにもつながるしテレビにも出演、新聞にも掲載された。膨大な情報を取り入れて、アウトプットするというプロセス。世界最大の電子図書館はインターネットではないか。
「教会」としてのインターネット→公共性・逃避・人生の可能性・心の平安・地域コミュニティ等。情報による救済と癒しの場。
著者の印税が9割になる出版モデルが作れないか→9割の著者は出版をしても数千部しか刷られず、印税が8-9%・一冊1500円として印税は100万円以下。ビジネス書だと書籍では儲からなくても名前を売ってその後講演等で儲けられるが、一般書ではそうはいかない。ブログやSNSで著者が自ら読者を集められるこの時代、デジタルで直販できないか。(上記NINの事例・情報商材・個人有料メルマガなんかはそういう物だと思っています。。。)
有益な書評がすぐに見つかる仕組みの構築→新聞書評は曲げられているものもあるし、枝葉なものもある。Amazonの書評は信者がいるとゾロゾロ書かれて信者がいないと不当な批判を書かれたりしてあまり信用できない。良い本は万人に良い本があるわけではなく、難易度や趣味が合うものが良い本なのであって、それらにたどりつきたい。著者としても、「著者はパンのみによって生きるにあらず」であり、感想・共感・フィードバックを見たいはず。
永久アーカイブとしての国会図書館→アメリカの
インターネットアーカイブのように、有名でも無名でも個人の発言や人生ログを全部保存できないか。
。。。という感じでかなりはしょりましたが全体を読みたい方はたくさんの方がtsudaっておられたので
こちらをどうぞ!
最後に。私は図書館って大好きです。香港でも「香港中央図書館」に行ってきました。
入り口。
すごい立派!
無料でwifiが使えるし、デスクには電源もあるのでパソコンを持ち込んで勉強している人も多い。
視聴覚コーナーもある。
大きな窓で、景色もすばらしい。
香港では所蔵書籍データのデジタル化(本のスキャンではなく、どこにどの蔵書があって誰が借りているみたいなもの)が進んでいるそうで、別の図書館に所蔵されている書籍も検索できて、予約ができ、貸し出し延長とか色々なことがフレキシブルにできるとのこと。私の地元の図書館でも練馬区立の図書館については同様のことができるのですが日本でも都内全部、国内全部で図書館による「知の共有」ができるようになったらよいですね。(まあ香港は小さいので日本よりはこういったことがだいぶ楽なわけですが)